長田弘『人はかつて樹だった』 みすず書房

久々に詩集を読みました。長田弘さんの『人はかつて樹だった』です。この詩集の21篇は「思わぬがんの告知を受けた家人に付き添って、傍に、樹のように、ただここに在るしかない、この冬からの日のかさなりのなかで編まれた」ものです。

人は樹だったとして、その気が成長から衰退までをしっかりと見届けようという、強い脆い生きる意志を感じます。また、この詩は自問自答の結果ではなく、奥様との対話の結果から生まれたものです。

そのなかで「むかし、私たちは」「空と土のあいだで」「樹の伝説」が印象に残りました。やはり詩集は全文を読んでもらいたい。このように抜書きするのは心苦しいのですが、それでもこの詩集の一端を知ってもらえればと思い書き留めました。

(前略)
大きくなって、大きくなるとは
大きな影をつくることだと知った。
雲が言った。― わたしは
いつもきみの心を横切ってゆく。―
うつくしさがすべてではなかった。
むなしさを知り、いとおしむことを
覚え、老いてゆくことを学んだ。
老いるとは受け入れることである。
あたたかなものはあたたかいと言え。
空は青いと言え。
「樹の伝説」より p31-32

詩集 人はかつて樹だった