田村輶一『ハミングバード』(青土社)より

「砂上にて」

まず白紙をひろげる
そして言葉があらわれるのを待つ

言葉があるから詩が生まれるのではない
言葉を探す旅が詩だとしたら

小さな海の家にいってみよう
半裸の人間たちが出入りしているが

水着だけでは職業も分からない
人間という種族は醜いものだ

それだけ分れば人間もすこしは美しくなる
泣いても喚めいてもいいが

喋ることだけはやめてくれ
言葉を書くなら砂の上に描いてくれ

寝たり食べたりする空間は砂上に
波という神の手が

たえず洗っては消し去ってくれて
白紙だけがひろがっている