原研哉『日本のデザイン』(岩波新書)より


 花を活けるというのは、空間に気を通わせるということである。空間とは壁に囲まれた容積のことではない。意識を配して、配慮の明かりが点灯している場所のことである。何もないテーブルの上にぽつりと石を置くと、そこに特別な緊張が発生する。その緊張を介して人は「空間」にふと気をとめる。このように、施設の内に小さな蝋燭を灯すように、ぽつりぽつりと意識が灯されて空間になっていく。花を活けるというのはそういう行為である。造形そのものもさることながら、心の配信が空間に生気を生み出すのである。p131


デザインのデザイン      日本のデザイン―美意識がつくる未来 (岩波新書)      白