山本夏彦『茶の間の正義』より

何よりもいけないのは、温室もの、冷凍ものに慣れると、本物の味を忘れることである。忘れて三十年になるから、今では冷凍の魚と、しゅんの魚を区分できるものがなくなった。業者はそれをいいことにして、魚をすべて冷凍にしてしまった。海に近く育って上京した者は、初め似ても似つかぬ味に驚くが、たちまち慣れ、または絶望してあきらめる。「繁栄天国というけれど」p133


茶の間の正義 (1967年)         茶の間の正義 (中公文庫)
 
左:単行本 右:中公文庫