狩野俊『高円寺古本酒場ものがたり』

狩野俊『高円寺古本酒場ものがたり』(晶文社) は東京高円寺にある「古本酒場 コクテイル」の、オーナーの日記を中心とした酒と古本の日々が綴られています。また、オーナーの孤軍奮闘ぶり、仲間たちの支持協力ぶりも静かに熱く語られています。

この店は「古本酒場」ですが、古本好きの人、酒場好きの人、音楽が好きな人など、さまざまな人が集まってきます。類が友を呼び、友が類を呼ぶ。そこがイベントの場になったり、人と人との交流の場になったりしています。

読んでいると、2007年の日記のなかの、「引越し」という箇所が目に留まりました。そこには、狩野さんの引越しのことが書いてあり、何と引越先が「通称高円寺の貧民窟」中野区大和町だといいます。

私も学生時代に中野区大和町に住んでいました。狩野さんも書いていますが、「高円寺北」と「中野区大和町」では同じ間取りで1万円くらい・・・私の場合はもっと差があった記憶ですが・・・でも、この差は確かに大きいのです。

また高円寺北は杉並区です。中野区というよりも、杉並区に在住といった方が「角よりダルマ」(ワンランク上)でした。しかし、それが実現したのが、大学を卒業してから。ようやく高円寺北に引っ越しました。

高円寺は学生時代を過ごし、社会人になっても3年は住んでいました。本当に住みやすく、親しみやすい、どこかちょっとほっとする街です。

狩野さんも、高円寺という街で、いい人たちと出会い、楽しい店を出し、今に至っています。紆余曲折あり、しかしあまりにも愚直一途な生き方。このように生きてきたのでしょう。

 選んで、選んで、選び続ける。これが生きるということ。こうやって生きていけばたぶん人間は腐らない。肉体は腐っていっても、精神は、魂は、朽ち果てない。だれにも倒されない。
 荒野に向かうのは、なにも青年だけではないのだ。というか、荒野に向かうという選択をした時点で、年がいくつだろうと、みんな若者になるのだ。馬鹿野郎、かかってこい、というのが人生―だ。 p126

あの「若者たち」の世代か。君の行く道は果てしなく遠い、と聞こえてきそうですが、こういう生き方もまた潔くていいのではないでしょうか。この本、そんな「古本酒場」の、おやじさんの喜怒哀楽の物語です。

尚、この物語の続きは「古本酒場コクテイル 店番日記」でお読み下さい。

高円寺 古本酒場ものがたり         文士料理入門