森毅の本と森銑三の本
前掲の安原顯編『文庫本ベスト1000』学研M文庫から、二人の森さんについて追記しておきます。ひとりは森毅さん。もうひとりは森銑三さん。「エッセイ」担当の上野昂志さんがこのお二人を取り上げていました。
森毅さんについては9/20の「いい本は雑本の中に眠る」ですでに取り上げました。上野さんは森毅さんの本の中で、『数学的思考』(講談社学術文庫)を挙げて、次のように言っています。
大学にも学問にも関係のない私のような人間が、数学者で森毅という、面白いおっさんがいると知るようになったのは二十年ぐらい前だったと思う。この本は、その十年ぐらい前に書かれたいるのだが、文章は実に平明達意、それでいて味がある。だから、数学が苦手だなと思う人が読んでも、いつの間にか森的話術に引き込まれて面白く読んでしまうだろう。それでいて、基本的なポイントはしっかり踏まえられているので、アタマにとっても刺激的である。p265
「文章は実に平明達意、それでいて味がある」。また、「基本的なポイントはしっかり踏まえられているので、アタマにとっても刺激的である」。これは、森毅さんの『二番が一番』を読んだ時に感じたことです。一刀斎 森毅さんは、いつでも、軽妙、広大、多岐、そして面白い。
さらに、もうひとりの森銑三さんです。上野さんは森銑三『明治東京逸聞史』(東洋文庫)を取り上げて、こう書いています。
ちゃんとした学問を踏まえてエッセイを書くといったら、むろん、こちらの森さんの名を逸するわけにはいかないが、『物いふ小箱』みたいなメチャ面白い本が文庫になっていない。だから、とりあえず本書を挙げておくが、これがつまらぬというわけではない。それどころか、時代をこういう枝葉末節と思われる事象から浮かび上がらせる手腕に感心する。もっと森銑三の本を文庫化すべし、と声を大にしたら、冨山房文庫に『おらんだ正月』が入っているのを知った。p265-266
森銑三さんの場合も「時代をこういう枝葉末節と思われる事象から浮かび上がらせる手腕に感心する」という点は同感です。そして、上野さんが言う『新編 物いう小箱 』(講談社文芸文庫)も文庫化されました。この本は未読ですので、読んでみたいと思います。