疑え、そして覚醒せよ

「確信」を疑え。「認識」を疑え。いま「見えている」と信じている「世界」を疑え。見られているすべてには、それを見ている誰かがいる。その「見る者」の位置、「語る者」の位置を疑うことなく、何かを知ることはできない。何かを知り、おこなうことはできない。まず、すべてを疑え。徹底して疑え。その上で自分自身が他の人々、あるいは人間だけでなく他のすべての存在との相互作用をつうじて(アクションをつうじて、つまりはただ生きることをつうじて)ともに生起させているこの「世界」の途方もない厚みとゆたかさに、覚醒せよ。

ウンベルト・マトゥラーナ フランシスコ・バレーラ 管啓次郎 訳『知恵の樹』(ちくま学芸文庫)の「文庫版 訳者あとがき」より。

知恵の樹―生きている世界はどのようにして生まれるのか (ちくま学芸文庫)