クラフト・エヴィング商會『おかしな本棚』#5

 神戸は本を買いたくなる街だ。うちの本棚の至るところに神戸で買った本がある。『既視の街』はいまはもうない高架下の古本屋で、『迷子論』は三宮地下の新刊書店で買った。買った本の背中が入口となり、本棚から「あのころの神戸」までいつでも歩いてゆける。
 本を入口として既視の街で、しだいに地図から逸脱して迷子になる心地よさと動揺。堀江敏幸さんの『郊外へ』は、自分が探していたのはまさにこの本だと思えた希有の一冊でした。迷子になるたび磁石の代わりに買いもとめ、あるいは、自ら迷子になりたくてまたもとめ、一体、うちの本棚には『郊外へ』が何冊あるのか。旅先で買い、ターミナル駅構内の書店で買い、無論のこと郊外で買い、行きがけの書店と帰りがけの書店で購入。そのつど、迷いながら、導かれながら、歩きながら繰り返し読んでいます。 p73


           郊外へ (白水Uブックス―エッセイの小径)
 
こんな街を見つけ、こんな本を読みたい。
雨上がり、外は青空、風強し。