クラフト・エヴィング商會『おかしな本棚』#2

クラフト・エヴィング商會の『おかしな本棚』に「ただひとつだけの本棚」というページがあります。ここには岩波新書だけが並んでいます。背ヤケした新書、グラシンが破れた新書、新刊同様の新書、裸本の新書等々。

とりわけ、ぼくが集めているのは、表題が単語ひとつだけのもので、『火』とか『月』とか『ヴァイオリン』とか『チベット』とか『修道院』とか『自由』とか― もう最高です。これが本の基本です。この世のありとあらゆる単語ひとつひとつに本を一冊つくる。一冊だけでいいのです。あとはもう、つくらなくてよろしい。二冊目はドジョウで三冊目は蛇足です。

並んでいる岩波新書のタイトルはまさに単語ひとつのものばかりです。こうした本の並べ方もあると意表をつかれた感があります。その驚きによって「新書のじつに端正なたたずまい」を改めて発見します。

それから、もうひとつ驚いたのは「変身する本棚」です。この本棚にはカフカの『変身』の文庫しか並んでいません。それも各社・・・旺文社文庫、角川文庫、岩波文庫新潮文庫・・・のものです。

さぁ、『変身』のことなら任してくれ、と言いたいところですが、じつを言うと、作品そのものよりも、新潮社版の装幀(=杉浦康平・辻修平)があまりにかっこよく、古本屋で見つけるとつい買ってしまうのでした。

ということで、その本棚には同じものも一緒に並んでいるのです。だから、これだけの冊数に。こうした発想の棚があってもいい。面白い棚だと思います。また、それだけではなく、訳者ごとの棚もあっていいのではないでしょうか ・・・ 。

クラフト・エヴィング商會の『おかしな本棚』には、さまざまな発想が次々と展開し、新しい本棚を創出する力があります。

変身 (新潮文庫)     変身・断食芸人 (岩波文庫)     変身,掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-1)



※私は『変身』の新潮文庫版の表紙が一番いいと思います。これは読者一人ひとりの好みです。カバーデザインも訳者も好みがあります。最終的に自分が納得するデザインを、訳者を選ぶことがベストです。