茨木のり子さんのこと




日曜日は何といっても新聞の読書欄から始まります。朝日と日経は宅配ですので、まず手にとって読みます。それ以外はネットで書評や記事をチェックします。読書欄を読んでいると、自分の関心がいくつかの記事と繋がります。

実に不思議なのです。自分の意識下にあったものが、活字によって目覚め、連鎖していくということ。ことばによって心に新しい化学反応をおきる。そして、その結果がブログの記事となるのです。

今日はすでにYouTubeの動画だけを掲載しておきましたが、茨木のり子さんのことを取り上げたいと思います。

ではどのようにこの詩人が浮上してきたのか。それは朝日新聞の読書欄の「著者の会いたい」から始まります。

そこには著者である後藤正治さんが出版した『清冽 詩人茨木のり子の肖像』(中央公論新社)について書いてありました。ご承知の通り、茨木さんは2006年79歳で亡くなっていますが、『倚りかからず』などの詩集は多くの人たちに支持されました。

著者はこうした茨木さんの強さを<茨木のり子を強い人といってさしつかえあるまいが、それは豪胆とか強靭といった類の強さではなく、終りのない寂寥の日々を潜り抜けて生き抜く、耐える勁さである>と記します。

後藤さんはノンフィクション作家として35年、現在は神戸夙川学院大学の学長を務め、90分授業を週4回持っているといいます。いままで書き続けてきた動機について、次のように書いています。

<人とその人生を書くのが、自分に向いている。人と会って、帰り道にポカポカとして気分になることがある。今日はいい言葉をもらった、人間って捨てたもんじゃないなと思えることが、書くことのモチベーション>。

次に読んだのが「中日新聞・東京新聞の書評」でした。そこで、『清冽 詩人茨木のり子の肖像』の本が取り上げられていました。クリックすると、評者が小池昌代さん。これは読まねばと思い読みました。

小池さんの書評の冒頭。

< 茨木のり子は、詩が人間を支えるということを静かに実践し得た詩人である。若いころ評者もまた、詩人の書いた「汲(く)む」という作品に、励まされ泣いた記憶がある。>

小池さんの書評を読んで、この「汲(く)む」という詩を読みたくなりました。

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汲む ― Y・Y に ―   茨木のり子

大人になるというのは
すれっからしになるということだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女の人と会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始まるのね 堕ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

私はどきんとし
そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子どもの悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……
わたくしもかつてのあの人と同じぐらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです

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それから、YouTubeで茨木さんを検索すると、はじめの動画を見つけたので掲載しました。今、私はこの本『清冽 詩人茨木のり子の肖像』をぜひ読みたい、そう思っています。

最後に、小池昌代さんの書評の結語が印象に残りましたので、引用しておきます。

<『歳月』はその夫を恋うる詩集で、甘やかな官能と慟哭(どうこく)が入り交じった作品が並んでいる。本人の希望もあり茨木の死後に刊行された。本書と併せて読んでみると、茨木が一人の女として秘めるべきものは秘め、亡くなったということがわかる。「わたくし」を慎み、栄光を遠ざけ、寄りかかってもいいのに、人前では背筋を伸ばして生きた人。「清冽(せいれつ)」な生涯がここに定まった。>

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