CMディレクター杉山登志

6/22朝日新聞の「終わらない」シリーズで、CMディレクターの杉山登志さんが取り上げられていました。*1

リッチでないのに
リッチな世界などわかりません
ハッピーでないのに
ハッピーな世界などえがけません
「夢」がないのに
「夢」をうることなど・・・・・とても
嘘をついてもばれるものです

こう書き残して、73年12月12日杉山登志さんは死にました。いまはもう遠い物語のようで、いつしか杉山さんの名は忘れられました。TVCMを含む広告はそれから今に至るまで、常に新しい「嘘」*2を提供し、消費を促進してきました。

大澤真幸さんのいうように、1945年から1970年ぐらいが「理想の時代」、95年くらいまでが「虚構の時代」、現在までを「不可能性の時代」とするならば、理想から虚構への転換期に杉山さんの死があるような気がします。

あのメモのように真正直に考えなくてもいいと思います。が、彼は広告の中に理想ではなく虚構を見ていたのかもしれません。CMの制作を通して「嘘」を感受し、そうした時代の来ることを予見していたのではないでしょうか。

1980年を境に、日本は豊かな国になっていきます。杉山登志さんは死に、糸井重里さんがリッチで、ハッピーな、夢のある生活を「おいしい生活」と呼び、日本はバブルへと上昇を始めました。

バブルが弾けて以降、広告は低下し、いままでの勢いを失いました。逆風の中で、インターネットが普及し、Web広告が浴びる時代になりました。新しいメディアには新しい「嘘」が必要となり、その多様化の中で『広告批評』がその役割を終えました。

あれから、30年以上も経っています。人々の生活は時代に揺さぶられ、めまぐるしい「変化と対応」に追われています。そんな時代であればこそ、彼の問いとともに、「杉山登志は終わらない」のかもしれません。

本当にリッチですか。ハッピーですか。「夢」ありますか。


*1:杉山登志さんと松尾真吾さんについては今井和也著『テレビCMの青春時代』(中公新書)を参照下さい。

*2:開高健さんの好きなことばに「三つの真実より一つの美しい嘘を」というのがあります。そうした意味も含んでいます。