【読書メモ】「ベンヤミンの方法」

今村仁司『精神の政治学』(福武書店) p94-95 より

ベンヤミンが『十九世紀の首都パリ』あるいは『パッサージュ』の中で試みようとしたのは、レトロ=プロ=スペクティヴの操作であった。眠れる新しきものを目ざめさすためには、衝撃を必要とする。日常生活の中でも埋もれているガレキのごときものを互いにぶつけあわせて火花を出させる。この火花が目ざめを待つものに火をつける。忘却の淵から甦る過去の中の新しさは、現在を追いこし、前方から批判の刃をつきつける。ボードレールアレゴリーフーリエの想像力、ブランキの夢、サン・シモンの夢、今では忘れられた名もなき人々の夢、これらのなかにはぐくまれてきた新しきものは、新しい天使となって、はるか彼方から、現在に向かって救いの手を差しのべる。

 これがワルターベンヤミンによる新しきものの目ざめの構想である。ベンヤミンの方法には、一種の救済論的モチーフがある。それは宗教的な救済論というよりも、小さきものや個物の救済論である。目ざめさせるべき新しきものは、塊になった集合体ではなく、ささやかで、はかない個物である。そして、人間個々人の在り方は、こういった個物の在り方である。ベンヤミンにおいては個物の自由、小さくてささやかな細部の全体に対する抵抗力を目ざめさせ、救い出すことが問題であった。歴史とは、大きな塊(マス)の中よりも、目ざめを待つ個物の中にある。個性とは歴史の表層から排除された異者なのである>