竹中労『無頼の点鬼簿』を読んで

これは昨日のコメント欄に書きましたが、「ちくま文庫のためのオリジナル編集」です。編集の意図はどうであれ、無頼派竹中労さんの文章は手ごたえのあり、最近読んだきた作家と比べてもはるかに重いのです。これは当時の時代の重さでもあります。

竹中労さんを野球のピッチャーでいうと、直球投手なのですが、その直球の球質が重い。また荒れ球を投げるので、キャッチャーが捕れるかどうか。時折、キャッチャーのサインを見ずに投げることもあり、球筋がつかみずらいかもしれません 。しかしいつもマウンドでは堂々としたスジの通った投手でした。

この文庫には『朝日ジャーナル』『現代の眼』など、各誌に書いた三島由紀夫から始まり父竹中英太郎までの「点鬼簿」(過去帳、または追悼文)が編集、掲載されています。どの人も竹中さんと濃い交流のあった人達で、じっくりと読んでしまいました。

今の時代はアウター、フラット、クールな時代です。その重さや濃さはないのですが、軽さゆえに「あの不安」が内向し、一人一人の心の奥に沈殿しています。それがいつどういうことで、外向するかわかりません。本当は心に不安と狂気が充満しているのかもしれません。

しかし、人は本来の関係を断ち切られても、個人として即発の心の状態を抑制しつつ、日常生活を送っています。そうした状況で、竹中さんの言葉がその個人の心に触れるか触れないか。こういう時代であればこそ、竹中さんの文章はかなり強烈な刺激であることは確かです。

無頼の点鬼簿 (ちくま文庫 た 20-7)