今和次郎編纂『新版大東京案内』

とにかくいい天気で、少し汗ばむくらいです。この陽気にうかれて、一冊読了しました。これが面白い。現在から過去へ。それも昭和の初めにタイムスリップしたような、そんな錯覚に。

読んだ一冊、今和次郎編纂の『新版 大東京案内』(ちくま学芸文庫)。

この本は写真あり、地図あり、広告ありで、面白さ満載です。すでに70年以上も前の街が、店が、人が甦ってくるようで、あっ、こんなことがあったんだ、あんなこともあったんだと、どんどんページをめくってしまいました。

いつだったか、観た映画「地下鉄に乗って」のように、過去と現在を行き来し、こんな時代、あんな時代に思いを馳せています。この本は東京案内として編纂されたのですが、当時は東京ガイドブックとして好評を博したのではないでしょうか。

例えば。

この内で今一番客の来るのは、人形町の末広と、四谷の喜よし位のものである。喜よしは、震災でなくなった本郷の若竹と並んで山の手随一の席亭で、いつもいい顔がここに揃うので、郡部から省線で来る人さへあり、中々よく入っている。木戸銭は七八銭である。

このように、四谷にも寄席があったのです。当時の娯楽の少ない中で、こうした愉しみを満喫していたのでしょう。それにして、四谷に寄席があったとは驚きでした。

いまにして思えば、そうした愉しみ場所も少なく、遊びといっても限られた人のものではなかったか。まだまだ庶民はそうしたこともままならず、日夜生活の追われる日々だったのでは。そんなことを想像しています。

この一冊は昭和初期の東京の日常が垣間見られ、感嘆と驚異の文庫です。中央公論社から、昭和4年に刊行されました。引き続き下巻を読もうと思っています。