田村隆一『すばらしい新世界』

今日は平積みにしていた本がひょんな拍子で崩れ落ちてしまいました。その中から滑り出たのが田村隆一さんの『すばらしい新世界』(新潮社)でした。何とはなしに、読み始めたら、これが面白いのです。少々加速がついて、今も読んでいます。

その中から、次の一文。これはなるほどと思い、メモをしました。

「貧」は創造力を生みだすが、「欠乏」は欲求不満しか生みださない。となりの家は、ベンツを買ったし、ご長男は東大(偏差値大学と称す)に入った。それじゃ、私の家も。欲求不満の弱点は、増殖することである。「貧」は、分際を知ることである。分(ぶん)をわきまえてこそ、すばらしい美術や文学が生まれるのだ。

そういえば、こうした「貧」は80年代に入り、少なくなったというよりも無くなってしまったのではないか。今この「貧」を求めても、どこにも転がっていない。分をわきまえるといっても、分とは何かもわからなくなっています。

「貧」に対して「欠乏」。「欠乏」に対して「貧」。その「貧」がない以上、まずは何が「欠乏」しているのかをつかんでおくことです。次に「欠乏」に対して何を対置すればいいかを考えることでしょう。

ともあれ、「貧」は創造力を生みだすが、「欠乏」は欲求不満しか生みださない、この言葉は深い。