出久根達郎『隅っこの「昭和」』

出久根達郎さんの『隅っこの「昭和」−モノが語るあの頃−』(角川学芸出版)を読みました。そのなかで、気になる箇所がありました。それは本好きであれば当然の悩みである本の処分についてです。

出久根さんは古本屋の立場から次のように言います。

私は古本屋だから、「理想的な書物の処分法」をよく訊かれる。その場合、古本屋のあるじでなく、本好きの一人間として、こう答える。「一度読んだ本は保存し、読んでいない本を片づけなさい」p68

出久根さんは一度目を通した本は後日きっと必要になる。一度読んだ本だから活用できる。だからそれを優先しなさいと言っています。確かに単純明快な処分法です。

こうした割り切りでスッキリと処分できればいいのですが、それがどうもままならない。でもこの処分法は確かに一理あります。これを参考に処分できれば、部屋はかなりきれいになること請け合いです。しかし ・・・・・ となります。

また、出久根さんは同書でこんなことを書いています。

評論家の川本三郎さんが、「近所に古本屋と豆腐屋があれば、しあわせ」と書いているが、どちらも好きな私も、全く同感である。p210

自宅の近所に古本屋さんがあることは大賛成なのですが、私の場合はやはりパン屋さんか。豆腐よりパン。これは世代の差なのかもしれませんが、美味しいパン屋さんがあって、焼きたてのパンが食べたいのです。

最近はそうした思い入れのある店が少なくなりました。いままで普通にやっていたパン屋さんが突然店を閉めたり、新しいパン屋さんを偶然発見したり、今までになくお店の様変わりしたりします。

これは食べ物屋さん全般に言えることで、今に始まったことではないのですが、それにしてもめまぐるしい動き。そのスピードについていけないと、お店が立ち行かなくなるのです。これがきびしい競争社会の現実です。

今のんびりと過ごせるだけの余裕のある時代ではないのかもしれません。なぜかさかさとした時代になってしまったのか。だからまだ温もりのあった昭和に回帰しているのかもしれません。

そんな時代のなかで、私は「近所に古本屋とパン屋があれば、しあわせ」と書いておきたい。

隅っこの「昭和」モノが語るあの頃