串田孫一さんの『文房具56話』

電車の中で読む本は文庫に限ります。新書でも構わないのですが、適度な大きさというと、やはり文庫。毎日かばんの中には文庫か新書を入れているのですが、文庫を読む機会の方が圧倒的です。

昨日もそんな電車読書で読んだ本を紹介します。串田孫一さんの『文房具56話』(ちくま文庫)です。

文房具56話

この本は56の文房具を取り上げ、串田さんの体験も交えて、文房具にまつわる話が記されています。いまも使われているものやもう使われなくなったものなど、いろいろ文房具が登場します。

例えば、「ぶんまわし」。 すぐにコンパスとは?想像はできますか。はりこれはコンパスでしょう。いまは持っていませんが、でもかつては算数で使っていました。そのコンパスを使い、円を大きくしたり小さくしたり、重ねたりずらしたりして、不思議な円を描いていました。

また、「鳩目パンチ」。これは一つ穴のパンチなのですが、横から見ると鳩の目のようなパンチなので、そう呼ばれているそうです。わからなかったので、ネットで調べました。即、意味と写真で、そのものがわかります。残念ながら、これを使う機会はありませんでした。

次にはカーボン紙と謄写版。まだコピー機がない時代、お世話になったのがカーボン紙であったり、謄写版であったり。複写はカーボン紙、印刷は謄写版。特に謄写版で刷る前に、文字を書くのですが、「原紙を切る」といいました。ゆっくりと丁寧に文字を書いたので、時間ばかりがかかってしまいました。どれだけ原紙を切ったことでしょう。

この本を読んで、どことなくゆったりした、でもしっかりとした串田さんの歩行のリズムを感じます。そのリズムに乗って、自在に時空を超えて、話が展開します。自分の使った文房具を通して、さまざまな時代を、人を、物を振り返ってみてもいいのではないでしょうか。