常盤新平さんは60を過ぎて木山捷平を読む
常盤新平さんは先日読んだ『明日の友を数えれば』(幻戯書房)で、次のように語っています。
<講談社文芸文庫で『大陸の細道』を読み、『氏神さま・春雨・耳学問』を読んで、全作品を読んでみたいと思うようになった。木山さんの一つ一つの作品が胸に沁みこんでくるようだった。そのとき、私は六十をとうに過ぎていて、六十を過ぎてからは足腰が弱くなり頭もとみに悪くなって、まったくろくなことはなかったが、しかし、ただ一ついいことがあったと思う。木山捷平を読み、生きていてよかったとしみじみ思ったことである>。
本はいつどこでどう読んでもいいと思います。その本に出会えてよかったと思えれば、それだけで十分です。そういう本と出会えれば、常盤さんのように「生きていてよかった」と言えるのでしょう。
しかし、そういう出会いはまれ。奇跡あるいは恩寵と言うしかありません。でも、人はそれを願って、本を読み続けるのです。