近田春男『僕の読書感想文』より

 やはり私には古本のほうが楽しい。ひとつには新刊にピンと来るものが少ないというネガティブな事情もある。が何といっても思いがけぬ掘り出し物の発見だ。
 つい先日もこんな本を見付けた。元値が六千五百円(’79年)のところを千五百円。厚さは広辞苑ほどもある。何だか判らないが、買って損はしないんじゃないか。とにかく手に取ってみる。
 これがちょっと”当たり”だったのだ。どういう本かというと<<大正末年から近年に至るまでの各方面の文章のうちから、とくにすぐれた部分または特色的な部分を、できるだけ多数えらび出して>>一冊にまとめ上げたものなのだが、とにかくベラボーなヴォリュームである。佐藤春夫夏目漱石あたりから、一番新しくて井上ひさしぐらいまでだろうか、優に千を越す名文がぎっしり詰まっている。それこそタイトルの『現代文章宝鑑』にいつわりなし。他に類を見ない膨大な現代日本語コレクションだったのである。

近田春男『僕の読書感想文』(国書刊行会)p113-114

「思いがけぬ掘り出し物」を発見すれば、古本は愉しいと思います。そしてやみつきになります。そうなったら、もう古本屋めぐりはやめられなくなります。

僕の読書感想文