平野甲賀の文字と運動

2/10(金)のブログ「今日のスイートから」の[1]で、次のように書きました。

佐野繁次郎の装幀本を棚に並べて撮影すると、やはり絵になります。どんな本でも、この文字を見れば、佐野さんだとすぐわかります。他と比べて独自。これが個性です。書き文字でいうと、佐野繁次郎さん、田村義也さん、平野甲賀さんなどが思い浮かびます。さすが文庫善哉さん。

ここで、「書き文字」と書いたのですが、「描き文字」が正しいので、お詫びして訂正します。

このブログ記事を書いた後、昨日の図書館から借りてきた本についても記載しました。その他に、見たいと思っていた雑誌『アイデア 345』(誠文堂新光社)があったので、それも一緒に借りてきました。

その雑誌の特集は「平野甲賀の文字と運動」。ご承知の通り、平野さんは晶文社のカバーデザインをずっと手がけてきました。晶文社を語る上で、編集の津野海太郎さんとデザイナーの平野甲賀さんは不可欠の人たちです。

その晶文社本のカバーデザインがこの雑誌に所狭しと掲載されています。当店(四谷書房)も一時期晶文社本ばかり蒐集していたことがありました。懐かしい本、欲しかった本、まだ並んでいる本など、多々あります。

しかし、これだけ見せられると、平野さんの「描き文字」に賭けた情熱と技術が強烈に伝わってきます。平野甲賀の独自のタイポグラフィの世界を肌で感じることが出来ます。

若き日に憧れたのは粟津潔さん。武蔵野美術大学の指導教員は原弘さん。そして津野さんとの出会い、著者たちとのつながりが晶文社という出版社を起点として拡がっていきました。

書き手は小野二郎さん( 晶文社創立者としてだけでなく、作家としての小野さんをもっと評価していいと思う )、津野海太郎さん、長谷川四郎さん、藤本和子さん、小林信彦さん、片岡義男さん( 小林さん、片岡さんの評価が低すぎるのもずっと気になっていました )。そして、植草甚一さん( 晶文社植草甚一さんを発見しなかったら、ひっとして、そのまま時代に埋もれていたかもしれません )、高橋悠治さん等々。

これらの方々と仕事が出来たこと自体、幸せなことだったと思います。時代が時代だけに、愉しいことばかりではなかったと思いますが、それでも振り返れば、平野さんの作品が残り、作品が平野さんを時代を代弁しています。( そういう時代もあった!のです )。

そうした平野さんを知りたい人、平野さんの仕事を知りたい人、時代を知りたい人はこの雑誌をぜひお読み下さい。平野さんの文字は高く低く、遠く近く、大きく小さく運動をつづけ、まだ着陸する兆しはありません。

idea (アイデア) 2011年 03月号 [雑誌]
 
 
平野甲賀装丁術・好きな本のかたち (シリーズ日常術 2)      おかしな時代      ぼくたちの七〇年代