鉄腕の誇りと生涯一捕手の意地

いつも外出するときには本、それも文庫本を持っていきます。これが外出本の第一条件です。単行本ですと、重すぎます。重さも気にならない内容でしたら、持参もいいでしょうが、そうでない場合はやはり文庫になります。

しかしです。その外出本を忘れるということもあります。その時にどうするかですが、ある人は書店へ、ある人は古本屋へ、ある人はスタンドへ、と各人各様の行動をします。

私の場合はどうするか。

まず古本屋へ直行します。ない場合は「ブ」へということになります。そこで均一本を買って、合間の時間を過ごします。

外出本の第二の条件はそれは外出本の内容です。できるだけ重くなく、軽い本を選びます。もっと言ったら、読み飛ばしも可能な本でも可です。

さらに、外出本の条件が続きます。第一条件で文庫を挙げましたが、軽いというと、新書でもいいわけです。文庫よりも新書・・・今をコンパクトにまとめ、ブック化したもの・・・のほうが外出本には相応しいかもしれません。

そこで、今回買ったのが香原志勢著『動作―都市空間の行動学』(講談社現代新書)。

これは人類学者の都市のシーンでの人間観察記録です。例えば、「社内で」「盛り場で」「会議室で」人間はどう動くのか、それを観察し分析し解釈しています。

プロ野球選手、稲尾投手と野村捕手・・・今、この二人をどれだけに人が知っているでしょう・・・のことを取り上げたところがありましたので、メモしました。

偉大なるバッターであった野村勝也の有名な述壊によると、稲尾はどんな球種を投げる時も、同じフォームであったが、野村はその癖を徹底的に調べ、ワインドアップで頭の上にボールが来た時に見えるわずかな白い部分の大きさで、その球種を知るに及んだという。癖とはおそろしいものである。もっとも、稲尾は、野村の話を伝えきくと、たちまちその癖をなおしてしまった。 p113

相手の動作を読むこと、読まれたら変える。その駆け引き。鉄腕の誇りと生涯一捕手の意地。双方、やはりプロです。

たまたま買った本でも、こうした「ちょっといい話」を読むことができます。それだけで、十分満足です。

動作―都市空間の行動学 (講談社現代新書)