開高健『風に訊け』を読んで

先日の当ブログ「田村隆一『ぼくの人生案内』」で唐突に開高健さんのことに触れました。そのせいで? 開高さんの『風に訊け』(集英社)を読み返しました。

これも読者の質問に開高さんがアドバイスをするという内容。質問自体がいい質問もあれば、珍問奇問愚問もあったりして、なんとも面白い内容になっています。開高さんのアドバイスもふるっていて、個々の解答には開高さんならではの返しをしていました。この返し、実に上手い。

この本を読了して思ったことは、田村さんは田村さん流があるように、開高さんには開高さん流があるということ。そして、ともに博覧強記、機略縦横、海千山千の方々だということです。

特に、開高さんの文章は素晴らしさは次のような表現にあります。

質問は哲学について。

 哲学は、理性で書かれた詩である。あれは詩なんだ。論理と思ってはいけない。詩なんだよ。もう一歩つっこんでいうと、詩の文体で書かれた心の数学である。
 もちろん、その理性の詩は感性で裏付けられている。したがって、一度その詩から君が外れてしまうと、いっさいは屁理屈のかたまりにすぎなくなる。その哲学者の感性および理性の周波数と、君の周波数とが一致したとき、それはみごとなボキャブラリーの殿堂になり、宮殿になり、大伽藍になることもある・・・・・というこっちゃ。

こうしたことばの爆弾があちらこちらに仕掛けてあります。あまり中途半端に関わると自爆することもありますので、この点は要注意です。しかし、この本を読み終わったら、新しい地平が見えていることは確かです。