田村隆一『ぼくの人生案内』
田村隆一『ぼくの人生案内』(光文社知恵の森文庫)を読みました。久しぶりの田村さんの本ですが、田村さんの写真あり、詩あり、人生案内ありと盛り沢山の内容です。
田村さんの人生案内は、新宿のゴールデン街の飲み屋で、人生の先輩として、お説教をするのではなく、酒を飲みながら、たまたま一緒になった隣りのおじちゃんと話をしているような感じでした。
若い人たちからの質問は仕事のこと、彼女のこと、家族のこと、将来のこと、コンプレックスのこと等々。田村さんの質問に対しての返答は、時に軽妙洒脱、時に沈思黙考、時に懇切丁寧でした。
例えば、「旅」についての警句が2つありました。普通の人は簡単にこうは言えません。それをさらっと言い切ってしまうところに、田村さんの凄さがあります。さすが、田村さん。
旅というのは、未知なものとの交流であって、
人、小動物、野草、雑木、海の色の変化
つまり、旅することは、
肉眼を養うことなんだ。
人間は元来、旅をする生きものなんだよ。
生まれてから死ぬまでの、
長いようで短い旅。
人間の生涯は旅することなんだ。
こうしたアフォリズムがあちこちにちりばめられており、そのことばの軽重、強弱、遠近に自然と納得してしまいます。だから、詩人は詩人なのです。こうした詩人はそうそういるものではありません。
そして、なおもこう書きます。
ぼくは、いまでも
70歳なったくせに
裸足のまま
・・・・・・・・・・・・・・・・隆一「灰色のノート」
われわれも、70歳になっても、裸足でいられるのだろうか。肉眼で物をしっかり見れるのだろうか。
こういう話ができるのは田村隆一さんと、もう一人開高健さんしかいないでしょう。田村さんの人生案内、開高さんのライフスタイル・アドバイス。共に命の水をこよなく愛した詩人と作家です。