福田和也『東京の流儀 贅沢な街歩き』
福田さんの『東京の流儀 贅沢な街歩き』(光文社) という東京街歩きの本を読みました。内容は次の3つに分かれています。
1 散歩酒、大好き ― 呑み、歩き、食べて呑む
2 東京のいま・むかし ― 町っ子っていうのはさ
3 ぴんの店・ぴんの人 ― さて本日の寄り道先
福田さんは行く街や食べ物について好き嫌いがはっきりしています。それをわかった上で読むと、東京本の一冊として読むことができます。
街で言うと、新宿や六本木はどうもらしいのですが、銀座や上野などの街をこよなく愛しています。この一冊はフェアなガイドブックというよりも、福田さんのこだわりの東京案内になっています。
またこの本を読んでいて、東京で育った人とそうでない人の違いを感じます。これはまず育った環境の違い、そして街のひと・もの・かね・ことの集積度の差から生じます。地方出身者の場合は東京へのコンプレックスからでしょうか。
例えば、次のような「こぼれ話」も読むことができます。
武満徹の、「レイン・ツリー」の初演を聴いた。
ちょうど、前の席に大江健三郎が座っていて、柳田国男の全集本を読みながら、開園を待っていた。
そういえば、「ノヴェンバー・ステップス」の日本公演 ― あれはどこだったろう。日本青年館だったろうか ― の時にも、大江健三郎が斜め前に座っていて、その時は、『日本霊異記』を読んでいた、ように見えた。p96
なるほど、柳田国男の全集本と『日本霊異記』?ですか。それは確かに大江さんらしいと言えるかもしれません。
また、福田さんは自らのの「師匠」についても語っています。
文筆渡世の師匠は、云うまでもなく我が師江藤淳であるし、社交の何たるかは西部邁さんに教わった。俳句の師匠は、角川春樹大宗匠だし、人生(?)の師は、立川談志家元、なんて並べると嫌みかもしれないけれど、こういう師匠たちのおかげで、なんとか人間らしいふりもできるようになった。ちなみにこの本を企画してくれたOさんは、私の酒場巡りの師匠である。p151
さらにカメラの師匠として、田中長徳さんを取り上げ、田中さんの素晴らしさを書いています。こうして、福田さんの人脈を知ることができます。
最後の「こぼれ話」になりますが、保守とは何かをわかりやすく説明していますのでメモしておきます。
かつて、福田恒存先生は、「保守とは、横丁の蕎麦屋を守ることだ」と看破された。
つまりは、毎日、とは云わないまでも日常に通う店、つまり自分の生活スタイルを保持すること、そのために失われやすいものにたいして、敏感に、かつ能動的に活動する精神を、保守と云う。p156
街を知ること、食を知ることで福田さんその人を知ることができます。福田さんの本を読むことで、福田さんの東京を知ることができます。福田さんの東京の食を知ることで、生活が豊かになります。
しかし、豊かな生活にはそれなりにお金がかかります。この点ご注意下さい。大きな生活よりも小さな生活を。私はそれで十分な気がします。