木村榮一さんの3つの小説

昨日は松浦弥太郎さんの「私の本」を紹介しましたが、木村榮一さんの『ラテンアメリカ十大小説』(岩波新書)を読んでいたら、こう書いてありました。

本との出会いはその人の生き方や人生に大きな影響を与えることがあります。振り返ってみるとぼくの場合、中学生の時に読んだドストエフスキーの『罪と罰』、それから教師になってから出会ったフリオ・コルタサルの『石蹴り』とガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』がそれに当たるようです。『罪と罰』を読んだ時は、大きな衝撃を受けてしばらくは何も手につかず、文学というのはものすごいものだと感じ入った記憶があります。『石蹴り』と『百年の孤独』もぼくにとっては大変大きな意味を持っていました。p87

昨日の松浦弥太郎さんにとっての『路上』と『北回帰線』と同じように、「2つの小説」? ( 新書の見出しにはこう書いたありますが ) ではなく、『罪と罰』、『石蹴り』、『百年の孤独』の3つの小説が木村さんに大きな影響を与えました。

だからこそ、木村さんはラテンアメリカ文学を専攻し、今回この『ラテンアメリカ十大小説』というラテンアメリカ文学の入門書を書いたのでしょう。この入門書はわかりやすく、ていねいな解説で、読者の想像力を刺激し、読んでみたい気持ちにさせます。

この入門書ともっと早い時期に出会うことができれば、われわれにとってラテンアメリカがもっと身近に感じられたことでしょう。1冊の本の想像力は地理的距離を、歴史的時間を軽々と越えてしまいます。

たとえば、一番手のホルへ・ルイス・ボルヘスの紹介の結びにこう書いています。

ボルヘスをたとえてみれば、途方もない記憶力という船に乗って時間の海を航海し、そこに浮かぶ書物という驚異に満ちた島々を発見してぼく達に商家してくれているのです。その彼の操る船に乗って未知の海へと旅立つのは、読者にとってはこの上ない新しい発見の旅になることでしょう。ラテンアメリカ現代文学の先駆的な作家であると同時に、唯一無二の世界を築いたボルヘスはいろいろな意味で読まれるべき作家の筆頭に挙げられます。p37

こうした結び、上手い! と思います。こう紹介されると、ラテンアメリカ現代文学にどんどん引き込まれていきます。実に面白そうなのです。まずボルヘスから、次にコルタサル、そしてマルケスへ ・・・ 。

だからこそ、どんな分野でも、いい入門書が必要なのです。何事も入門書しだい、と言っていいのかもしれません。食わず嫌いにならないためには、まずは美味しい試食(入門書)を、ということなります。

エル・アレフ (平凡社ライブラリー)     罪と罰 (上巻) (新潮文庫)     罪と罰 (下巻) (新潮文庫)
 
 
  石蹴り遊び(上) (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)     石蹴り遊び(下) (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)    



ドストエフスキーの文庫カバーも変わりました。私は新潮文庫版のカバーに慣れ親しんできましたので、いまのカバーにはどうも馴染めません。いい本であればあるほど、内容はもとより、カバーも含め、全体として記憶に残っているものです。