加藤秀俊『常識人の作法』を読んで
学生時代に友人から加藤秀俊の社会学は平明で明解な社会学だと言われて、一時期集中して読んだことがあります。あれから、どのくらい経ったでしょうか。久々に図書館で借りた加藤さんの『常識人の作法』(講談社)という本を読みました。
この本は加藤さんが随筆やコラム等を書くときに溜まった未完の草稿やメモに手を入れまとめたものです。大項目は次の6つに分かれています。
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- 「つきあい」のゆくえ
- 「疎外」ということ
- 雑学考
- 漢字をどうする
- ことばの作法
- トーテミズムの現在
この中で、特に印象に残っているのが、「ことばの作法」の次のことばです。
語彙不足でことばの訓練の足りない現代日本の若者たちがちょっとしたキッカケですぐに「キレる」というはなしを耳にするたびに、私はこの柳田説を思い出す。「キレる」というのは心のなかに鬱積したエネルギーが言語化されることなく堰を切ったように爆発することである。なにもいわずにいきなり泣きわめく、暴力沙汰になる、物騒なばあいにはナイフをとりだして無差別殺人に走る。その原因はすべてがそうだとはいわないが、かなり多くのばあい、「キレる」のは言語能力の貧困と関係しているのではないか、とわたしはおもっている。p231
こう指摘して、言語能力をアップする方法はというと、次のように提案しています。
はんらい、語彙をじょうずにえらび、それを丹念に組み立てて、とにかくどうにかまとまった「文」をつくる、といのが言語教育の基本であった。p232
しかし、人間、生きているかぎり言語から離れるわけにはゆかない。英語なんか覚える必要はないが日本語くらいふつうに読み、書き、聞き、話す能力をもっていたほうがいい。その能力を身につける方法は簡単である。「辞書をつかう」こと。p233
そして辞書と言っても、とりわけ「類語辞典」を推薦しています。手元にあるのは小学館『類語例解辞典』。そして、本格的なものとして山口翼さんの『日本語大シソーラス』(大修館書店)を挙げています。
少なくとも職業的ジャーナリスト、文筆家にとってこれら「シソーラス」は机上に用意されるべき必須の一冊だ、とわたしはおもっている。p236
もっと言語生活を豊かにするために、日本語を学ぶことが必要です。また、そうすることで、自分の思いを爆発させることなく、相手との交流も円滑になります。そのために「シソーラス」を、という提案には賛成します。が、英語については賛同できません。
加藤さんは「英語なんか覚える必要はないが」と言っています。日本人として英語より日本語の身につけることが優先であることは確かです。それを強調する意味でそう言ったのかもしれません。
しかし、これからも日本が世界とのつながりの中で生きていくことを考えると、もっと世界との交流・交通が必要です。そのために、英語は21世紀の日本人の必須言語であると思いますが、どうでしょう。