中平卓馬という写真家

中平卓馬という名前を知っていますか。中平さんは評論家でもあり、写真家でもあります。私は写真家の中平さんに接するより前に、本や雑誌を通して、評論家の中平さんに接していました。

中平さんの評論にはクールでありながらホットな熱気がありました。どちらかというと、重い直球勝負の評論でした。初めは写真家でありながら、評論?と思ったのですが、読む始めるとその求心力に引き込まれていました。

ところが、中平さんの写真は評論に比べて、すっきり理解できませんでした。評論と写真との関係もうまく掴めず、中平さんの写真をどう見、どう読めばいいのか。ずっと逡巡していました。

3/20の朝日新聞の日曜版、美術家森村泰昌さんの「視線」というコラムで、中平さんの新刊『Documentary』(Akio Nagasawa Publishing)を取り上げ、写真家中平さんについて、次のよう書いています。

<人間の顔に人生の機微を感じ、風景に情緒的な美を見いだし、社会的建造物に歴史を読み取るというような、通常の写真家が被写体に期待する意味や価値に、中平が関心をよせることはない。そうではなく、意味や価値が付与される以前のナマな存在の裸形を、「気配」として絡めとることにこだわろうとする。この、中平のカメラアイが持つこだわり、あるいは強い意志のことを、中平卓馬の「思想」と言い換えてもいいのではないだろうか。
 中平卓馬は、カメラとの心中を決め込んだ写真家である。この写真家の道行きを恐る恐る見まもる他ないだろう。>

中平さんの写真はそういう写真であり、中平さんはそういう写真家なのです。私は森村さんから中平さんを見る、そして読むヒントをもらいました。これは私にとって大きな啓示でした。

中平卓馬 Documentary        来たるべき言葉のために


なぜ、植物図鑑か―中平卓馬映像論集 (ちくま学芸文庫)        原点復帰-横浜



上段左:『中平卓馬 Documentary』Akio Nagasawa Publishing (2011/1/8)
ったく、中平卓馬はいいところへ行ったよな。
オレは口惜しい!      ─ 森山大道

上段右:『来たるべき言葉のために』オシリス (2010/06)
伝説の写真集、甦る! 
制度的言語への苛烈な挑発から40年・・・・・
写真の歴史は中平卓馬に追いついたのか?

下段左:『なぜ、植物図鑑か―中平卓馬映像論集』筑摩書房 (2007/10)
写真にとって表現とは何か、記録とは何か。1960年代後半から70年代にかけて、ラディカルな思考と実践を貫きながら激動の時代を駆け抜けた写真家が、自身の作品と方法の徹底的な総括を通して、来るべき時代の表現を模索する写真+映像論集。( 原著刊行から30年余を経て待望の文庫化。)

下段右:『原点復帰-横浜』オシリス (2003/10)
中平卓馬展「原点復帰─横浜」(横浜美術館、2003年)に際して刊行された、伝説の写真家・中平卓馬の全貌を知る貴重な一冊。

写真は創造ではなく、記憶でもなく、ドキュメントであると、私は考える。撮影行為とは、抽象的なことではなく、常に具体的だ。単純なことを観念化して難しいものにしようとするのではなく、カメラという媒体を通して私が出会った現実がここにある。─ 中平卓馬