幸せな読書家
読書好きになったのはいつからでしょう。ふと振り返り考えてみても、明らかにこの本からとか、この作家によってとか言えない。そのくらい、なんとなく好きになったというケースが多いのではないでしょうか。
しかし、そうでなく、本と作家と強烈な出会いの体験をした方がいます。こうした体験は寝食も忘れるくらい、あるいは雷光に打たれるくらいの衝撃だった(らしい)のです。
9月24日の朝日新聞朝刊、読書欄の「たいせつな本」の池内紀さんはその好例でしょう。本はトーマス・マンの『魔の山』。それもドイツ語の原書との出会いを語っています。
池内さんはこの本を神田の古書店で見つけてから三日間読み続けたそうです。わからない単語や文章があっても、辞書を引かず、飛ばしたりしても、本文が理解できたそうです。
なまくら者の私が、いまだ『ドイツ文学者』の看板を下ろさないのは、あの十代の体験への深い愛着があるからである。
こうした本との、劇的な出会いをした人は本当に幸せだと思います。このストーリーを読むだけでも、すごい、と納得してしまいます。こういう人を「幸せな読書家」というのでしょうか。
でも、池内さんのような出会いでなくても、無名な作家であっても、有名でない本でも、新刊でなく古本であっても、これもまた本との貴重な出会いなのです。
そうした出会いから本とつきあっている人も、『魔の山』と出会った読書家と同様に「幸せな読書家」なのです。