坪内祐三さんの仕事の流儀

 原稿は仕事場のマンションで書いていたが、午前中の早い時間はいつも自宅のリビングのソファにごろんと横になって、真剣な表情で文庫本を読んでいた。
 仕事場文字通り足の踏み場もなく積み上げられた文庫には、小さな付箋が貼られている。3Mの「スリム見出し・ミニ」という25ミリ×7.5ミリの極小のポストイットを使っていた。
「書評する本の、どの部分をどういうふうに引用するかが書評家の腕の見せ所なんだ」とよく口にした。勘所を押さえるために貼る付箋は、一冊につきせいぜい三、四ヵ所で迷いがない。

週刊文春」 4月23日号 坪内祐三と「文庫本を狙え!」妻の佐久間文子さんが追悼の記「気がつけばいつも」で書いています。これが早逝した坪内さんの仕事の流儀でした。