原武史『潮目の予兆 2013・4-2015・3』

原武史さんの『潮目の予兆 2013・4-2015・3』(みすず書房)を読了しました。この日記は竹内好さんの日記に触発され、また題名は関川夏央さんの『豪雨の前兆』(文春文庫)を参考に名付けられています。

さらに竹内さんの日記があちこちで引用され、2013年から2015年までの原さんの生活状況と人間関係に日々細部にわたり記されています。

例えば、二〇一五年一月二日(金)の日記 竹内さんと鶴見俊輔さんの夕食の駅弁のやり取りを次のように書いています。

 再び上州一ノ宮から上越電鉄で高崎に戻り、自宅で食べる夕食として「だるま弁当」と「峠の釜めし」を買う。竹内好は一九六三年一月七日の日記で、スキー帰りの信越線の車中で夕食の駅弁をどれにするかをめぐり、「峠の釜めし」を主張する竹内と「だるま弁当」を主張する鶴見俊輔との間で論争になり、最後に鶴見が折れて「釜めし」に同調したこと、竹内は転向だと言ったが鶴見は認めなかったことを書いている。しかし、今日はどちらも買うことにした。

また、人間関係の面では、柄谷行人安藤礼二加藤典洋、その他多くの書き手と関係しました。なかでも、四方田犬彦さんについては二〇一五年二月二日(月)の日記で、次のように評しています。

 書評委員会で取った四方田犬彦『台湾の歓び』(岩波書店、二〇一五年)を読む。この人の文章は独特なリズムがあり、私の感性になじむので、毎度のことながら読み出すとやめられなくなる。大学をやめてフリーになり、いよいよ自由な時空へと飛翔していくような文章が脳裏に絡み付く。還暦を過ぎても群れず、もちろんボスや権威になることもなく、永遠の旅人たらんとするこの人の精神から学ぶことは多い。

そして、最後に竹内さんの最後の一文「責任解除!」で日記を閉じています。
これ以降の日記も「みすず」に掲載されていますので、次回の日記の単行本化が愉しみです。

潮目の予兆――日記2013・4-2015・3

潮目の予兆――日記2013・4-2015・3

  • 作者:原 武史
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2015/08/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)