丸谷才一さんのほしかった辞書

丸谷才一さんの『無地のネクタイ』(岩波書店)のなかに「ほしい辞書」というエッセイがあります。その中で引用句辞典がほしいと書いてありました。

無地のネクタイ



英米ではこうした辞書が多数あり、丸谷さんも10冊以上もっているそうです。しかし、日本にはこうした辞書が少ないと言います。

では、なぜ英米では引用句辞典が多いのでしょう。そこで丸谷さんはそれはクロス・ワード・パズルのせいらしいといいます。彼ら(英米)の文化自体は引用に満ちていたいそうです。

そして、日本の場合も引用づくめの文化でしたが、それが「明治四十年代から始まる新文学は、古典の糟粕をなめることを嫌って新しい表現を求め」ました。

そして、古人の名文句や名台詞を捨て続けたそうです。それが「最近になって、引用句の乏しい文化の寂しさにようやく気がついた」ようです。

そこで、丸谷さんは言います。

一国の文化的エネルギーをあのやうな企て(奇怪な辞書)に浪費せずに、立派な引用句辞典を一つ二つ作ってもらいたいと切望する。それはリファレンス・ブックとしても、読物としても、ずいぶん役立つはずだ。

ただ引く辞典だけなく、楽しい引用句辞典を作ってくれたら、言葉の世界がもっともっと拡がることでしょう。どこかの出版社で、そうした引用句辞典を作ってくれないものでしょうか。

※丸谷さんが愛用していた辞書は山口翼編『日本語大シソーラス』(大修館)と大野晋浜西正人編『角川類語新辞典』(角川書店)の2冊だそうです。この点、追記しておきます。

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