石川淳『森鴎外』より

歴史上の諸事件をつらぬくものは人間精神の運動である。その連動の具体的な意味を知る手がかりとして後世に伝えられるものは、随時に発見採集されるところの部分的な史料しかない。・・・・・ 精神は光のようなもので、これより速いものはないので影は文学の中にしか残らない。いわゆる史料は現象記録である。ひとがそこに精神をつかまえたとき、史料は生動するであろう。


森鴎外 (岩波文庫 緑 94-1)