吉田健一『金沢』 あるいはネクタイの本数

日経新聞8月23日夕刊「文学周遊」より。今回取り上げているのが、吉田健一さんの『金沢』でした。

そのなかで、吉田健一さんの一面にすばり言及した箇所がありました。それは金沢の定宿、老舗料亭「つば甚」のいまの女将さんのひと言。まさしく「らしい」という箇所です。

<まったく英国人というダンディーな方で、バックの中には泊まる日数以上のネクタイがきちんと並んでいた、と聞いてます>。

そしてさらに、建築家の隈研吾さんはこの小説「金沢」を評して、次のように言います。

<ただそこを流れる時間の中に身を置いていれば、心地よいのである。(中略)その時間の流れこそが、成熟の時代の滑らかな時間の構造であったのだと思う>。

またその時間は、秋山稔さん(泉鏡花記念館館長 / 金沢学院大学長)曰く、<東京と金沢では流れる時間がまったくちがう。現実と非現実の間を行ったり来たりしながら、ゆったりと流れていくこの小説の時間は、この町にいると実感できる>ものだと言います。

読むべき本がまた一冊増えました。こうして読み切れない本ばかりが増え、いつの間にか関心がまた別に移り、その本はいつの間にか積読本のなかに埋もれてしまうのが常。しかし、この1冊は読みたい。

金沢・酒宴 (講談社文芸文庫)