『井上ひさしの読書眼鏡』を読んで

井上ひさしの読書眼鏡』(中央公論新社)を読みました。この本は井上さんの読書に関連するエッセイをまとめたものです。また、この本は当時<『読売新聞』に掲載、遺稿となった書評集>です。

本好きならば、どこから読んでも、どう読んでも、まったく構いません。例えば、井上ひさしさんが使用している辞書はなにかというと、いつも机に上にあるのが『角川必携国語辞典』と『岩波古語辞典』の2冊だそうです。

角川 必携 国語辞典         岩波 古語辞典 補訂版



では、なぜその辞書を愛用しているかというと、ともに大野晋さんが作った辞書だからです。そして、大野さんの『日本語の教室』(岩波新書)を紹介しています。<ここからが本書の大事な急所ですが>といい、次の箇所を引用しています。(P85-88)

<つまり事実を徹底的に重んじる精神、真実に誠意を持って対する精神を、確実に日本人の基底に据えて文明に向き合う必要がある。それは最も基本的に「物事をじっと見る」ことから始まると私は考えています。日本人は「物事をじっと見て」、全体像を組織的に把える習慣を欠いている>。

<物事をじっと見るとは、<手にとって集めること、選びだすこと、言葉を選ぶこと、言葉の筋を立てた論述から、論理へ、理性へ・・・・・>進むこと>。井上さんは実はこれこそが大野さんの学問の手法だと言います。

この本は<日本語をじっくり見ることを通した、これまでに類のない、みごとな日本文化論かつ日本人論になりました>と結んでいます。

井上さんは大野さんの新書だけでなく、さまざまな本を取り上げ、紹介しています。この本は、少し暑さにやられている心と体にとって、気軽に面白く読める本としてオススメです。

井上ひさしの読書眼鏡         日本語の教室 (岩波新書)