常盤新平『私の「ニューヨーカー」グラフィティ』(幻戯書房)

 「ニューヨーカー」の魅力はいろいろあって、その第一はやはり文章だろう。私は二十代のころから「ニューヨーカー」とつきあってきた。けれども、読んで面白いとわかってきたのはここ数年のことである。活字の力は凄いとあらためて認識をした。文章のよさがわかってきたらしい。長い道程だったと自分でも呆れている。
 「ニューヨーカー」が入荷する金曜日に洋書店に行くのがいまは大きな楽しみだ。隅から隅まで読むわけではないが、だいたい通読する。読みながら寝てしまうことが多いけれど、それで一週間が過ぎてゆく。決して褒められた読者ではない。(p35−36)

幸せな雑誌の時代の話、なんとも羨ましい限りです。読んでいて、好きなことをするときの、あの一途な楽しさを感じます。そして、この本の行間からあの純な思いが滲んでいます。

この本を読んで、常盤さんのひとつの原点はこの「ニューヨーカー」にあり。それを強く感じます。またアメリカという学校の一番好きなテキストであったことも実によくわかります。

そういう雑誌と出会っただけでも幸せではなかったか。最近になって読んで面白いと思うようになったと言います。その域に達するまで、どのくらいの年月がかかったことでしょう。

どうやら、ひとつの峠を越して、新しい眺望が見えたはずですが、行きつけの書店が無くなり、自らも世を去ってしまいました。人生いろいろですが、まずはよしの一生だったのではないでしょうか。

私の「ニューヨーカー」グラフィティ