平松洋子さんのこの一文

上手いのはてんぷらだけでなく、この一文。「天ぷらのおいしさ。これはもう、かりっ、ふわっ、さくっ。これに尽きる。」 以下の文も引用します。

天ぷらのおいしさ。これはもう、かりっ、ふわっ、さくっ。これに尽きる。天ぷらは揚げたものだが、私は蒸したものの一種だと言いたい。衣をまとわせ、熱い油のなかへ静かに放つ。たちまちふつふつと沸き立つ細かな気泡は、いわば素材が放つ蒸気。魚の、野菜の水分をどのあたりまで抜くか、生かすか。これがてんぷらの勝負どころだ。気泡の立ちかた、弾ける音、色合い、香り、箸のさきに伝わる軽さ重さ・・・・・さまざまな要素を頼りに、一瞬を逃さず揚げどきを判断する。
平松洋子『おとなの味』(平凡社) p56

平松さんはフードジャーナリスト、同時に素晴らしいエッセイストです。

おとなの味 (新潮文庫)