作家が出版社を設立するということ

今年作家が出版社を設立しました。一人は村上龍さん、もう一人は東浩紀さん。もうすでに報道されているので、周知のことと思います。村上さんは電子書籍を制作・販売する会社を、東さんは雑誌を出版する会社を立ち上げました。

村上さんの新会社G2010ジーニーゼロイチゼロ)は<電子書籍を出版・販売する新会社を、作家の村上龍さんとIT企業(グリオ)が組んで設立した。制作コストを公表し、利益配分を透明化することで、電子書籍ビジネスの公平なモデルを示したい>という意図で設立。( 詳細は「G2010の設立の理由と経緯」を。)

例えば、作家の取り分は作品によって変わるが、電子化コスト回収後は、売り上げ(配信事業者に支払う手数料分は除く)の10〜30%をグリオが受け取り、残りの90〜70%を作家に配分する考えだといいます。

これはいままでの作家、出版社、取次、書店の関係にも大きな影響を及ぼすことになると思います。すぐに実現するかどうか、段階があると思いますが、これは作家にとっても大きなプラスになりそうです。( そう思っているのは私だけでしょうか。)

また東さんは<新しい言論誌「思想地図β(ベータ)」を発表した。自由な本づくりを求め、自ら出版社を設立しての刊行だ。有料広告は出さず、宣伝はツイッターでの口コミで。それでも発売数日で初版8千部が売り切れそうな勢いだ>そうです。

東さんが<初めて僕自身をトータルに表現できた>という雑誌が発行できたのも会費8千円を納めた「友の会」会員千人の支持があったからです。そのサポートがなければ、出版社コンテクチュアズは設立できなかったでしょう。

村上さんはIT企業と賛同する作家たち、東さんは千人のサポーターと読者たちがあってこそ、出版社を設立することができました。

特に「思想地図β(ベータ)」を創刊した東さんの心境はかつて菊池寛が「文芸春秋」創刊したときの思いと同じなのではないでしょうか。

<私は頼まれて物を云うことに飽いた。自分で、考えていることを、読者や編集者に気兼なしに、自由な心持で云って見たい。友人にも私と同感の人々が多いだろう。又、私が知っている若い人達には、物が云いたくて、ウズゝしている人が多い。一には、自分のため、一には他のため、この小雑誌を出すことにした。>(「菊池寛 文芸春秋創刊の辞」より )

原初の気持は大事です。その気持を内容とともに、どこまで維持し継続できるか。走り出した以上、この問題に答え続けなければなりません。電子書籍であれ、雑誌であれ、どういうメディアであれ。これからの村上さん、東さんの動向に注目したいと思います。

尚、この「菊池寛 文芸春秋創刊の辞」は東さんの雑誌創刊について調べているなかで、「togetter」というサイトで見つけたものを転載させてもらいました。

思想地図β vol.1        思想地図〈vol.1〉特集・日本 (NHKブックス別巻)