粕谷一希『作家が死ぬと 時代が変わる』

粕谷一希さんの『作家が死ぬと 時代が変わる』(日本経済新聞社)は副題にもあるように、「戦後日本と雑誌ジャーナリズム」ですが、粕谷さんの戦後個人史といってもいいでしょう。

まずこの本は執筆したのではなく、対話と口述をもとに構成したため、読みやすくわかりやすいということが上げられます。半藤一利さんの『昭和史』も平易で明快でしたので、ヒットしたといわれています。おそらくそれを参考に。

次に歴史というと、事実の列挙になりがちですが、粕谷さんの実体験を絡めて、ストーリーが展開します。戦後の雑誌ジャーナリズムを通しての文壇や論壇などの内実、さらに人と人とのつながりもわかります。

また、粕谷さんが「いま書いておくべきこと」として、例えば、「丸山真男の影響について」「情報社会での言論のありかた」などのテーマで追記をしてます。それぞれ粕谷さんの個人的見解が述べられています。

例えば、雑誌ジャーナリズムの現状を次のように指摘しています。

 昭和二十年代からの日本の雑誌ジャーナリズムを代表する人たちといえば、「文藝春秋」池島信平、「週刊朝日」の扇谷正造、「暮らしの手帖」の花森安治の三人に尽きる。(注)
 その後、文春ジャーナリズムが主導する形で、雑誌全体がスキャンダリズムと右傾化の方向に傾きすぎていることに対して、私はいま強い危機感を持っている。(p92-93)

この雑誌ジャーナリズムの2つの傾向は加速こそすれ、減速する様相はありません。そうした中で、「主体的浮動層」としての知識人の役割も見直す必要ありといってます。( 詳しくは「「越境者・主体的浮動層」について」を参照下さい。)

この本は粕谷さんの、雑誌ジャーナリズムを通しての、もうひとつの「戦後史」本です。

(注)櫻井秀勲『戦後名編集者列伝』で、これと同様のことが書いてありました。もともとは大宅壮一さんの話に基づいているようです。

戦後名編集者列伝―売れる本づくりを実践した鬼才たち

大宅壮一扇谷正造を評して、「文春の池島、暮らしの手帖の花森と並ぶ戦後マスコミの三羽鳥」とほめているが、たしかに「扇谷の前に扇谷なく、扇谷のあとに扇谷なし」といわれるように、新聞人の中で、たった一人、雑誌ジャーナリズムで光芒を放った巨星だった。(p74)

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