岡崎武志編『野呂邦暢随筆選 夕暮の緑の光』より

岡崎武志編『野呂邦暢随筆選 夕暮の緑の光』(みすず書房)の「装幀」より。

書物はたんなる活字のいれものではない。紙質、見返しの色、背文字のかたち、紙の匂いと手ざわり、重さ、それらが一つになって書物らしい書物となる。コピイはいわばぬけがらのようなもので、文章は同じでも何か肝腎な要素がないのである。書物を書物たらしめるある種の匂いのようなものが。私はいわゆる愛書家ではない。しかし、いい本というものは、著者と編集者の愛情によって生れると信じている。結果として装幀も内容にふさわしいかたちをとることになる。コピイではそれがうかがえないのである。いい装幀が必ずしも名著とはいえないが、いい書物の装幀はおおむね好ましい。p5


夕暮の緑の光――野呂邦暢随筆選 《大人の本棚》